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映画『爽子の衝動』16日先駆け上映!『市子』の戸田彬弘監督がヤングケアラーに焦点を当てる
2024/12/12 12:00
杉咲花主演の映画『市子』の戸田彬弘(とだあきひろ)監督による最新映画『爽子の衝動(そよこのしょうどう)』が12月16日、「MOOSIC LAB 2025」(7日開幕)で先駆け上映される(2025年公開予定)。本作は、社会問題化している「ヤングケアラー」と呼ばれる家事や家族の介護・世話を日常的に行う未成年を扱ったストーリー。リアリティを追求し、俳優の自然な演技を引き出すことにこだわったという戸田監督と主演・爽子役の古澤メイ、訪問看護師サト役の小川黎(おがわれい)が語るインタビューを通じて、作品に迫った。
■リアリティを追求し、俳優の自然な演技を引き出すことにこだわった
──重たい社会テーマだと思うが、どういうストーリーですか?
戸田彬弘監督(以下=戸田監督):障害で四肢麻痺(まひ)になってしまい動けない状態になった父親と娘の話なんですが、娘がいわゆる「ヤングケアラー」と呼ばれるような年齢層で、彼女自身もADHDを抱えていて社会的に器用に生きられないなかで、そういう生活を強いられてしまったという親子のお話です。
──撮影で監督がこだわった点は?
戸田監督:できる限りリアリティが感じ取れる作品にしたいなというのは思ったので、撮り方だったり俳優さんにもすっぴんで出てもらったり。照明をしっかり綺麗に当てることもありません。美術的にも実際の古い日本家屋を使ったりしているので、土地や建物が生々しくリアリティをもって作っていけるようなことは考えました。
──前作の『市子』も観たが、団地の映像など生々しかった。
戸田監督:今回も近いかもしれないですね。同じカメラマンとまた組ませてもらったので。『市子』のときの団地は実際の場所を使わせてもらいました。今回も、いいロケーションを見つけることが出来ました。主人公の暮らす家は、隣人からも孤立するような所に建っていて、一家自体が社会から少し見えないところに隠れてしまったような……。
■風鈴の音色や風の音──現場で生で録ったものをそのまま生かす
──前作では、蝉の鳴き声がシーンを印象的にしていたが。
戸田監督:本作は音楽を使わないようにしたいと当初から思っていたので、劇伴と言われる音楽やエンドロールに流れるような主題歌のようなものもありません。その場で流れている虫の音とか、今回、風鈴が印象的に出てくるんです。風鈴の音色とか風の音とか、現場で生で録ったものをそのまま生かしています。後付けで、いろんな音を組み立てていくこともあまりなくて。
■生活の中でのことを当たり前みたいに大切に演じた
──ヤングケアラー役でどんなところを苦労した?
古澤メイ(=以下、古澤):家庭環境が四肢麻痺の父と自分自身がADHDを抱えている娘の2人暮らしなんですよ。台本をいただいたときからヤングケアラーというものは、なんとなくニュースでちらほら見かける機会が多くなってきていたので、知っていたんですけど、外側から見ると、あまり社会の中でうまく生きられなかったり、普通に生活している人から見ると、かわいそうな子だったりみたいな見られ方があるんですけれど……。本人はそこが基盤で日常生活を送っているので、ヤングケアラーは、誰しもが起こる可能性がある問題だし、介護のことはいずれは考えないといけない両親の問題だったりもありますから。ヤングケアラーだからとかだけではなくて、自身の生活の中でのやりたいことだったりとか、当たり前みたいなものを大切に演じたいなと思いました。
──新人訪問介護師サト役の小川さんも、特定の場面で話せなくなる「場面緘黙(ばめんかんもく)」という症状を抱えた難しい役どころだ。
小川黎(以下=小川):恥ずかしながら、この作品で初めて「場面緘黙」という症状を知りました。作品の中で自分が表現をする中で、症状に苦しんでいる方たちにも届くかもしれない。どれだけ責任を持って表現をできるんだろうかと常に考えていました。撮影が終わった後も、どうだったんだろうと考えています。でも、症状がサトの全てではなくて、サトというひとりの人間がいて、そこには慣れないながら毎日介護の仕事を一生懸命やっているという、強さもあると思います。サトの優しさも脚本を読んでいて感じていたので、どれだけ先入観や偏見を持たずに一人の人としてのサトを見られるかというところを考えながら演じました。
■初オーディション初現場が信じられないぐらいのお芝居
──監督がキャスティングを決めたポイントは?
戸田監督:小川さんはポーラスター選抜オーディションから選ばせていただいたんですが、今回が初オーディション初現場だったというのがちょっと信じられないぐらいのお芝居を見せてくれました。そこが一番決め手です。この企画自体に、新人俳優さんにチャレンジしてもらうためという背景があるので、将来的な可能性が大きいと感じる人を選ぶのが一番のポイントだったかなと思います。古澤さんはうち(チーズfilm)がマネジメントしている子なので、これから期待していきたいという意味合いで選んでいます。
──小川さんがオーディションを受けたきっかけは?
小川:(戸田監督の)前作『市子』を拝見していて、映画という作品を通して社会を見るとか、自分が生きている社会について目を向けられ、考えるきっかけになるというのは映画のいいところだなとずっと思っていました。『市子』を観てからも考えることがたくさんありましたし、心に残った作品としてあった中でオーディションをやりますという情報をいただきました。
■スタッフ全員同じ熱量!それぞれの役割を果たせる環境づくり
──撮影の雰囲気はどうでしたか?
小川:初参加させていただいた現場では、一つひとつにどれだけリアリティを持たせられるかということへのこだわりに驚かされました。机の位置やゴミ箱の位置など、本当にそこで生活しているならどうなるか考える必要があります。それぞれの日常生活描写には細心の注意を払うことが作品のリアリティのために必要だと学びました。この現場で、作品作りには作品への想いが必要だと実感しましたし、良い作品をつくるためには監督だけではなくスタッフ全員同じ熱量を持ち提案したり意見を交わしたりする姿勢には感銘しました。
古澤:作品作りとは誰かの日常を映すことであり、それについてみんな「映画というもの」を信じています。その誠実さや貪欲さには感銘しました。スタッフさんたちによる準備段階でも、医療コーディネーターとの細かな打ち合わせなど、不自然さなく日常生活描写への配慮には隙間なく取り組まれていました。そして共演者たちも職人として役づくりされている姿を見ることで、自分自身がお芝居できる環境への感謝や初心さ、大切さについて再認識できました。
──現場での監督はどんな印象でしたか?
小川:初めてお会いした時には穏やかな方だと思いましたし、その印象は現場でも変わりませんでした。しかし、一つひとつへのこだわりには熱意を感じました。演出面では「こうしてください」という指示より、「サトとしてどう思う?」と問い掛けて下さり、それによって私自身もさらにサトについて考え、自分自身の感覚を大切にして撮影できました。意見交換もしながら対等な視線で熱量を持って制作されている姿勢には感銘しました。
古澤:普段穏やかな印象ですが、監督としても柔軟さや優しさが基盤となっています。現場では、柔軟性や余裕があって周囲を見る力や角度から物事を捉える能力があります。監督だけではなく、スタッフも全員同じ熱量持っていますので、それぞれ自分役割果たせる環境づくりにも感謝しています。
■日本は平和で温厚と言われますけど……
──監督さんからどういう方々へ見てもらいたいですか?
戸田監督:現在地点の日本の問題を描写していて、そのためケアラーや生活保護など家庭環境に今関係無い方々へ観てもらいたいと思っています。そういう問題が今日本の中であるし、ケアラー問題に関しては、これからまだまだ広がるのかなというのは感じています。生活保護に対しても、今外国人の方がどんどん入ってきていますけど、外国人の方に生活保護を与えているといることに対してバッシングする方もいます。ヨーロッパや海外だと福祉の考え方がちょっと違っていて、「もらうべき人が必ずもらえるため」に(経歴を)詐称する人たち=もらう立場ではない人達に対しても配ってしまうのは仕方がないという考え方なんですよね。だから、必ずもらえる人に対して渡すために違法にもらってる人も受け入れるという体制。
日本に関しては、違法にもらう人たちをいかにゼロにするかと考える水際作戦みたいなことが起こっているというか。そのため、一部のもらえるはずの環境の人に届かない。考え方そのものが日本って閉鎖的です。島国でもあるし、そういう民族性が昔ながらあるのかなと思うんですけど。日本は平和で温厚と言われますけど、僕は差別と偏見が強い民族でもあると感じている部分もたくさんあるので。自分の環境は穏やかに平和に過ごせる人達に、こういう人たちがこういう状況で生きている、生きざるを得ない人が日本にたくさんいることに目を向けてもらいたいというのがあります。観た方が何を考えるかというのは先だと思うんですけど、まず知ってもらうこと、伝えることができればいいなと思っています。
■新人俳優にチャレンジしてもらうための企画──将来的な可能性を見た
──映画オーディションには新人俳優発掘の意味合いも?
監督:企画自体ポーラスター様との共同プロジェクトとして新しい俳優さんにチャンス提供の目的がありますので、新しい才能を知ってほしいです。
──現状の映画界では埋もれている俳優さんがいますか?
監督:非常に多く存在しますね。ただ興行事情があるため、ドラマはスポンサーが納得する俳優起用が必要なのは仕方がないです。しかし、今回の企画は商業ベース外で俳優にチャンスを与えるプロジェクトとしてスタートしたので、出演者が注目されたらうれしいですね。
この作品から、新たな才能や輝きを放つ俳優たちが誕生するかもしれない。
※トップ写真左から、戸田彬弘監督、古澤メイ、小川黎

■映画「爽子の衝動」ティザー

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