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【彼女が舞台に立つ理由】釜木美緒
2025/11/3 09:06
「大学までは儚げな役が多かったんですけど、劇団に入ってからは気の強い役とか、自己主張の激しい役をやることがめちゃくちゃ増えました。すごく怒るとか、元気な子供とか、気が強い女性の役とか……。とにかく腹から声を出すような役ですね。ちょっと芯のある役かな。本当にガラッと変わったんです」
何も演じていない時の彼女は「自己主張が強い」のか。それとも「儚げ」なのか。
「結局、私ってずっと演劇を続けているので、気が強いところはあるんだろうなって思います。大学を卒業して演劇を続けるにあたって親と相当揉めても、賛同を得られないまま続けました。親は学校でのクラブ活動としては応援してくれてたんですけど、いざ俳優を仕事にしようとしたら親と大げんか。もう顔を合わせるたびに揉めるみたいな感じだったんですよ」
〈プロフィール〉
■釜木美緒
東京都出身
1995年5月21日生まれ
156cm
趣味・特技 読書、水泳、ピアノ
経歴 劇団俳優座30期生2019年入団
彼女が演劇と出会ったのは中学1年生の時。それは決して積極的な出会い方ではなかった。もともと幼稚園の頃からテニスを習っていたことから、中学の部活でも続けていたのだが、すぐに幽霊部員となってしまう。
「周りとの雰囲気がちょっと合わなかったんです。クラスの人気者が集まっている感じで。決して嫌な人がいたとかではないんですけどね。そんな時に小学校から仲が良かった友人が演劇部に誘ってくれたんです」
友人が彼女を誘ったのには理由があった。その演劇部は友人以外は3年生の先輩が4人だけ。先輩たちが引退をしてしまえば、部は廃部になってしまう。友人の誘いに応じて彼女は入部。友人の努力もあって最終的には5人の部員が集まった。演劇部はとりあえず、ピンチを切り抜けることができた。
「しっかりと初めて舞台に立ったのは2年生の春の新人募集の時。新しく1年生を呼び込むために新入生歓迎行事でした。もうめちゃくちゃ緊張してしまって……。顔が赤くなってる自覚がありましたし、セリフも間違えてしまって。それも人の名前を間違えてしまったのでストーリーが変わってしまうくらいのミス。でも、みんながなんとかフォローをしてくれて、なんとか持ち直しました」
初めての舞台を経験した彼女の率直な感想は「自分には向いていない」というもの。ただ、仲間と過ごす時間は楽しかった。そして部員が少しずつ増えたことから、ステージに音響や照明などの演出も加わると、みんなでひとつのものを作り上げていく喜びから、演劇の魅力を感じるようになった。

そして高校に進学しても、彼女が選んだのは演劇だった。しかし、部ではなく活動同好会としての活動。大会に参加することもできなかった。それでも、中学時代と違い先輩がいたことで、新たな刺激も受けた。先輩たちから好きな劇団を教えてもらって、演劇の公演にも足を運ぶようになった。
「とにかく高校の時は大会に出場することが目標。それは実際に大会を観に行ったことがきっかけでした。同じ高校生がこんなにすごい演劇をやっているんだって驚いたんです。私たちは進学校だったので勉強ありきの活動でしたが、大会で賞をとるような学校の子たちって、演劇に対する意欲がすごく強い。そういう環境の差を感じました。覚えているのは青森の学校です。本当にすごかったので、私は学校を転校したいってくらい、うらやましかった」
結局、大会に出場するという目的は果たせず、高校生活を終えることになる。しかし、彼女の演劇への思いは、この高校時代でとても強くなる。その理由は、同年代の演劇人から刺激を受けたこと、そして多くの俳優が感じるであろう「自分じゃない人になる」ことの面白さに気づいたという経験をしたこと。ただ、もっと根源的な理由がそこにはあった。「今から思えばなんですけど……」と前置きをして、彼女は語る。
「進学校に通っている中で、私の成績はあまりよくなくて。実はすごく劣等感を持っていたんだと思うんです。小中高と繋がっていた学校だったので、生きていく道がずっと決まってる感じもありました。高校がすごく好きだったし、親にはすごく感謝してるんですよ。でも、今から振り返れば、自分には、何か圧みたいなものがかかってたのかもしれない。ただ、そんな圧からも舞台の上ならば解放されて、何も気にする必要がなかったんです」
当時、彼女が演じる機会が多かった役柄は幽霊だという。人間役では許されない突飛な行動も、幽霊ならば許されてしまう。そんなことが、ちょっとだけ肯定感を生んでいた。そして彼女は大学でも演劇を続けることになる。
「決して自分は演劇が得意だとは思っていないんですよ。続けようと思ったのは、とにかく好きだったから。ただ、大学時代は主役をやらせてもらう機会があって、やっぱり主役をやると目立つじゃないですか。どうしても出る時間が長いので。すると、“あの人が良かった”って感想をもらえるようなこともありました。これは、心の底からうれしかった。褒められるって、自己を肯定してもらえる気持ちになるじゃないですか。褒められたことで、次のチャンスにも繋がったりもしましたし。この頃は特に“声”を褒めてもらえることが多かったんです。アンケートでもそう書いてもらえることが多くて」
演劇を中心に生活をしていた大学時代。まったく知らない観客から評価をもらえるという成功体験を積んでいくことで、彼女は演劇への接し方が、「楽しい」から「もしかすると、得意かもしれない」と変化。少しずつ自信が芽生えた。そして、もっともっと演劇を極めてみたいと考えるようになった。もっと極めるためには、どうすればいいのか。彼女は俳優座の養成所に入って週5日、演劇と向き合う生活を送ることを決めた。ただ、養成所はそんなに甘くはなかった。
「養成所1年目で“声”で怒られまくってました。大学の頃は“声”で褒められていたのに。落ち込みましたし、私の声の良さがわかってないって違和感もちょっと持ちました。とにかく養成所時代は、それまでの自信をボコボコに崩されて1から演技を作り直すことになるんです。そして、劇団の先輩たちの舞台を観たりして、多くのことを学ばせてもらっていく中で、自分がまだまだ甘いということに気づかせてもらいました」
ちなみに現在は、両親からも彼女の演劇活動は応援をしてもらっているという。
「公演を観てもらった後に『頑張ってるね』って言ってもらえるのが、いちばんうれしいです」
そんな彼女が舞台に立つ理由は何か。
「私は他者には優しい人間でいたいなって思っているんです。優しくするってことは、他者を理解することだと思うんです。それは決して簡単なことではないと思うんですけど。この他者を理解するってところが演劇とすごくかぶると思うんですよね。演劇をやっていると、最初は意味わかんない役ってあるんです。でも、勉強すれば、どこかで私と近いところを見つけられて、そんな作業が楽しいんです。あと、私はずっと芝居を続けてるんだと思います。演劇を学ぶことに終わりはないので‥」
終わりのない道を彼女はこれからも歩み続ける。
(取材・文:海老原一哉)

■釜木美緒出演情報
俳優座2025年11月公演「存在証明」
劇団俳優座創立80周年記念事業
会場 シアタートラム
公演日程 11月8日~11月15日
釜木美緒のコメント
「メインは数学者の話になります。そして、人間の可能性を見つけることができ、人間ドラマがあふれ出す舞台です。ちなみに私は学生時代、数学は……めちゃくちゃ苦手で、意味が分かりませんでした(笑)」

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